「英雄」(「HERO」)

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言わずと知れたチャン・イーモウ監督の超・話題作。
金像でも撮影、美術、衣装、アクション指導、音楽などで最優秀賞をごっそり持ってゆきましたね。ごんへいさーい。
これらの受賞はホントに納得!だと思いました。
こういったそれぞれのスペシャリストの皆さんによる「総力結集」感がすごーーく濃厚に感じられる作品なんですよね。映画のための映画(なんてな言い方は意味不明ですが...)という感じで、撮影も美術も衣装も動作も音楽も、全て極上品なの。ステキ!

でも、この映画観てハマったか?っつーとそうでもなく(爆)。
これねぇ、「映画として」のレトリックは極上なんだけど、物語としての観客への寄り添い度が低い感じなんですよね、っていうか単にアタシがそう感じただけかもしれないけど。
上手く言えないけど…きっとマイスターの域まで行ってる歌舞伎役者さんが絢爛たる舞台で演じるお芝居を見たら、こんな気分かも...と思う。
あくまでも現実ではなくて、寓話であり様式であり、自分と同じ人間とは思えない「超人」が出てくる綺麗で静謐で豪華なお芝居。そんな感じ。
じゃ、シラケたか?というとぜんぜんそうじゃない。
すっごく興奮したし、感動したし、つまんないなんてことは全くないわけです。
心地よい距離感をもって鑑賞できる、って感じでしょうか。「映画的」にとても楽しい!
つか、「英雄」はそれだけじゃなくって、お笑いポイントも多いんだけどね。どうしても、どーしても笑ってしまうんだよねぇ…トニたん(ひー(笑)。誰か止めて~)。「無間道」では別になんにも可笑しくなかったのになぁ。

なんつか、もういろんな意味で「突き抜けちゃってる」って感じなんですよねこの作品。
「マジっすか!」みたいな荒唐無稽の連続だったりしても、全てがめちゃくちゃ美しくて、圧倒的な画面の凄みに息も止まりーの。
とにかく強烈。
絶対に一見の価値ありです。
こんな映画、前代未聞かも。製作にかけたカネも時間も前代未聞かもしんないけど(笑)。
イーモウ監督、お大尽しちゃったなぁーって感じ。でもきっと残る作品だと思う。
しかし、これをパソコンのモニター(VCD)で見てしまったアタシって...淋しすぎ(哀)。
この映画はスクリーンで見なくては意味がありませんよみなさん。公開されたら絶対見に行くぞ。みんなも行こう!

ストーリーは時間軸どおりに展開されるわけではなく、寓話のような感じだったり、想像だったり…何が本当なのかは「藪の中」みたいな。だからあまり気にすることもなく、流れに乗って正解。
アタシも最初、歴史の説明文がいきなり出てくるから「うう...。混乱しそう。わかんなかったらどうしよう...」と思って焦ったのですが、全然大丈夫だった。
基本的に「歴史モノ」ではないんですよね。全然。ははは…(^^;。

話の筋は過去に行ったり外れたり妄想に行ったり...と、瞬時に飛ぶの。でも、ちゃんと混乱しないで把握できるから大丈夫。それはナゼかと言いますと、視覚的に把握しやすいようになってるからなのダ!とっても親切設計♪
物語の主軸にいる残剣(トニたんね)の、たぶん心情の変化と共にシーンのテーマカラーを変えているんですよ。赤、青、緑、白と。(下図参照)
五行から来る「青春」「朱夏」「白秋」「玄冬」に対応してるのかな。
黒、ってのはリンチェ演じる無名の基本カラーでした。

 

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↑↑嫉妬と苦悩に燃える赤偉仔。冷静と情熱の間にいる青偉仔。若かりし日の緑偉仔。達観と平和の白偉仔。
国破れ、復讐に燃え、恋に苦しみ、全てを乗り越えて大きな境地に至る残剣さんのめくるめく変化が見どころです。野獣のようなワイルド偉仔や、お子ちゃまのような甘えん坊偉仔までもれなく見られるぞ。

主人公は一応、リンチェだと思うんだけど、リンチェはちょっと狂言回しの役みたいな感じですかね。まー、そのアクションの素晴らしさは今更言うまでもなく。
泣きも笑いもせず淡々としてるんだけど、心情描写なんてのがなくたって十分にその華麗なる動きは刺客・「無名」の人となりを表現するんですわ。
感嘆。かっくいー。

無名が一番先に倒す(ということになっている)相手が長空(ドニー)。
ドニーがねーまたカッコイイんだよ。無名との戦いの場面は、雨が降っているんですが...その水音と剣のぶつかる音がすごく美しいのです。
そこに琴の音が混じる。
とにかくこの「音」。そして優雅で力強い二人の舞踏のような動き。素晴らしいです。

次なる無名の相手は趙の国の生き残り刺客であり、書を書きながらひそかに秦王暗殺をたくらんでいる男・残剣(偉仔)。
残剣は同じ、元・趙国の要人の娘でこれまた刺客の飛雪(マギー)と、小さな頃から世話している弟子の如月(章小怡)と、書館に住み込んでいる。飛雪が長空と姦通したことを疑い、嫉妬に身を焦がしてもいる(ということになっている)。

無名が初めて残剣の元を訪ねたとき、残剣は砂に文字を書く練習(?)をしているのね。ここ、偉仔が初めて画面に登場するシーンなんだけど...その時に書いてるのがどう見ても「温泉マーク」に見えちゃって、イキナリ大爆笑しちゃったんだよーアタシ(爆)。
新春かくし芸大会」の中国語劇(香港明星版)が瞬時に脳裏に浮かびーの。
ああ大失敗。
以降、残剣さんが出てくるシーンでは常に含み笑いが浮かんでしまってさ...トホホ。
でもね、そうでなくてもマギーと偉仔のシーンって、他の大陸俳優たち(リンチェ、ダオミン、ツーイー)のシーンとはちょっと異質な世界を醸し出しているんですよ。
なんていうか...ちょっと...軽い(?)。
ツッコミの余地をどことなーく残しちゃってる感じ。ユルい。
ジェフ・ラウ監督を連れてくれば速攻でパロディ作れそう。「大英雄2」(爆)。

秦王役の陳道明はねー、めっちゃステキ。
香港の俳優さんにはああいった貫禄をもった人はなかなかいないと思うわ。
ツーイーもイイよぅぅ(*^^*)!アタシはもともとツーイーが大好きなんですけど♪もうね、彼女は期待を裏切らないね。いつもながら、女性の生々しい感情を表現するのがすごく上手い。胸にクる。やっぱり大陸の俳優って重厚ですわ。

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きゃー。ステキ。剣を振るう姿はもっとイイ(・∀・)!
ツーイーってものすごく物語性が豊かな表情を見せてくれる。そこが好き。
もちろん偉仔やマギーも頑張ってるんですが、彼らはイーモウ的な世界よりも、やはりカーワイ的世界の方が馴染みがいい感じするね(あくまでも私見です)。
存在が現代的なのかなぁ。どこがどう、って言えないんだけど、なんだか収まりが悪い感じ。マギーの無表情も、「楽園の瑕」では深みを醸し出せても、ここではちょっと物足りないかな。ツーイーに食われちゃってるように思うのは私だけ?


この映画では、凝ったセリフや心情を表すやりとりはあまり無いのですが、それらの代わりに、自然そのもの以上に美しく描いた山紫水明との交わりや(九寨溝ロケは素晴らしいです!)、圧倒的な集団との対比として描く「独り」の重さや孤独を描くことで、登場人物たちの「個」を描いている。その表現方法は、すごいなぁーと思いましたよ。
人間もまた無常の一部、みたいな、深~い感慨が沸き起こる。
でも、あまりマジメにそんな哲学にハマっちゃったりしないように(?)、時折ズッコケもんの漫画的CG特撮が挿入されるので、娯楽としてとどまっていられる。
なんとも不思議な存在感をもった作品です。

いろいろと書きたいポイントは尽きませんが、とにかく「絶対に観てソンはない」作品だと思います。評価は様々だと思うけど、絢爛たる「美術品」とは絶対に言えるんじゃないかな。


付記:
劇場公開されたものを見て、さらに感じたことなど加えておきます。(03/9/12)

この作品って、圧倒的な映像や華麗なアクションにまず目を奪われて度肝を抜かれちゃうのですが、本質的にはものすごく普遍の哲学を描いた作品なので、何度か見ると気づくところが増える感じします。案外奥深いですねー。
「腕にも心にも剣を持つことなく、全てを受け入れる大きな器を持つものこそが、英雄なのだ」というメッセージは、テロやその報復のための戦争などが絶えない昨今においては、まさにタイムリーな作品ともいえましょう。世界中の人に見て欲しいですね。
恨みからは何も生まれないということ。戦わないことを選ぶ、勇気。剣を捨てる者の、強さ。
それを無理なく説いている。
「剣をとる者は剣で滅びる」という言葉が聖書にもあるけど、そういう真理を残剣は自らの命と引き換えに愛するものに伝えるわけで、剣を捨てたときの残剣の慈悲深い微笑みにはグッとキちゃいますね。大いなる愛が、愚かな人間の愚行を贖う姿に。
っつーか、そこまでのことを残剣にさせるまで何度説いてもその愚かさに気づかない飛雪にイラッとするんだよね(笑)。マギーがまた、そういう偏屈な人間を巧く演じるんだこれが。

「英雄とは誰のことか?」と問われたら、この作品ではやっぱ残剣のことなのだと思います。
(こういうのって解釈がひとそれぞれ違うから、その人それぞれの「英雄観」があってもちろんだし、どのキャラクターも、英雄たりうる存在感があるので、その点を酒の肴に語り明かしたりなんかするのもいいかと思うね。)
最初は、「どうしてマッチョでもなくアクションもしょぼい偉仔がリンチェと匹敵するような強い剣客の役をオファーされたんだ?
それって、黄磊が呂布を演じるのと同じくらい無謀(←これはマジで無謀でした)なんじゃないのか?」と思ったんですが、大事なのはそういうこと(アクションができるとか肉体ができてるとか)ではなかったのだ、と、気づかされる。
残剣の存在は「悟り」ということが主軸なんですよね。そういった心の変遷や深みを表現できる役者、ってことで偉仔は選ばれたんだと納得。それなら偉仔の右に出るものはあんまりいないっしょー(^-^)。

マギーも、「紅」の場面ではなんとも色気が無くて、どうよ?と思うのだけど、それは色気が無いのでOKだったんだ、と気づきました。あのシーンは「捏造」(?)ですから、キャラに無いはずの個性でもいいのよね。飛雪の役割の本質は、ひとつのことに拘泥する人間の狭さ、みたいなもので、そこにおいてはマギーの演技は完璧だったと思う。

何度見ても惚れてしまうのはツーイーの演じる如月です。もう、すごく好きです。
如月が画面に現れると、たちまち命の躍動感が感じられるんだよ。温かい血が通う音がする。残剣への想いの強さも、どう考えてもかなわない相手にも闇雲に向かってゆく情熱も、「おいおい、お前の出る幕じゃないよ(^^;)」ってとこでも飛び込んでいっちゃうジャジャ馬かげんも、残剣に文字を与えられた無名に、いらんこと言う単純さまでもが愛らしいです。それをやんちゃなツーイーが演じるから、すごくイイ。彼女は質感(肌の透明度や涙の量や、そういう存在感っていうかな。演技とは別の天性の資質のこと)も完璧だしね。個性、強いわー。惚れ惚れ。

この作品で、偉仔は確実に新しいものを開拓したような気がします。
で、でも、どうしても「髪振り乱して必死で書を書く赤偉仔」とか、「飛雪にいきなり刺されて「ふへ?」って顔する青偉仔」とか笑ってしまうシーンも多いのぅぅ(爆)。うわぁぁ~なんて不埒な観客でしょうジブン(汗)。見逃して頂戴!

英雄 ~HERO~ Blu-ray

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  • 発売日: 2013/05/24
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