冬から春へと移りゆく時の中、閉ざされた心に花が咲き始める。
恋は、優しい野辺の花…と、古い歌にもあるように、凍てついた心を優しく包み込むのは春の陽に揺れる花のような、恋なのだなぁ…と思う。
この映画は、そんな野辺の花のような作品でした。春先のこんな時期に観るのに最適。
亡くなった最愛の恋人の思い出を辿る旅で、新しい予感に出会ってしまうという、すごくスタンダードな話ではありますが、普遍の話でもあります。
画家だった恋人の阿森(イーキン・チェン)を病気で亡くしてしまった曼(カレーナ・ラム)は、阿森が最後に残した遺作と日記を手に、彼が幼い頃に育った場所・青島(チンタオ)を訪れ、その絵に描かれた場所を訪ねようとする。そこで出会った郵便配達夫の小烈(リュウ・イェ)は、根気良く一緒にその「場所」を探してくれるが、次第に小烈に惹かれてゆく自分に気づき曼は自己嫌悪におちいる。そして、小烈の元を離れてゆこうとする曼に、小烈はある意外なものを届けてくれるのだった…。
というストーリー。
人は最愛の人を失った時、どうするか?
愛する人間が不在のこの世をどうして生きるのか?
最愛だったはずの人が、どんどん記憶から薄れてゆく哀しみとは?
その哀しみの向こうに、また花は咲くのだろうか?
…というね。
単なるラブストーリーにはとどまらない。複合的な「愛」と「恋」の話になってる。そこがとてもイイです(ちなみに私にとって「愛」と「恋」は別物です。私の辞書には「恋愛」という言葉は無い(笑))
ぶっちゃけ「リュウ・イェが見たい」というだけのモチベーションで見始めた映画だったので、全然期待していなかったんですが、思わず泣いてしまいました。
カレーナは寂しい役が多いような気がするんですが、そういう半死半生の(?)女性の役がやっぱ上手くて、愛する人を失った女性のポツンとした「独り」の感覚をよく表現しておりました。
その「独り感」を表現するのに、青島(チンタオ)というロケーションが実に!実に!素晴らしく機能しているのです。この映画、何が良かったといってチンタオの風景が良かった。
冬から春にかけての、静かで閑散としたチンタオの町並みが、舗道が、光が、空気が、すべて美しく人生を見守っているようで。
もうね、この風景を見るだけでも価値大有り!の作品です。
セットや小物もみんなあまりにもステキ。
下宿の窓ガラスや、調度や、流しの様子や、街角のカフェまで、大陸の魅力満載です。
大陸の雰囲気が好きな人はたまらんと思うよ。
閑散としてて、ごちゃごちゃしてない感じの…色彩過多な香港とは究極に違う雰囲気なんだけど。そういうの、すごく好きなんですよー。
私なんかもう、すぐにでもチンタオに行きたくなってしまいました。次に中国行くときには絶対チンタオだ!と心に決めた。
チンタオは昔のドイツ占領下の町並みがそのまま残っているので、古い中にも西洋のモダンが息づいていて、その華洋折衷(?)な雰囲気がまたオシャレなのね。レンガ造りの洋館が並んだりしてて。大戦時に破壊されて100年前の建物があまり残ってないらしい本国のドイツより、チンタオのほうがよほど100年前のドイツだと言う人もいるくらいです。
そんな古びた石畳の街に、独りの寂しい女の子が香港からやってくるわけですよ。これってのは孤独な人間が北を目指すという心理にも合致するわけね。気持ちのバイオリズムが沈静化してゆくイメージ。「みちのくひとり旅」みたいな…って、そりゃあまりに違うか。
とにかく、カレーナは「北に行く人」なのだ。それだけでも絵になるでしょう?で、そこに神様が救いの天使を遣わすんですな(笑)。
それがリュウ・イェなのら(゚∀゚)!うひっ。ね?もうこれだけで春のヨカーン。
この天使は、明るくて優しくて勤勉で、そしてとても繊細。でもって菜っ葉服が似合う純朴な田舎青年なのだ。でもってまたもや(!)郵便配達をしているのだ。街の郵便配達。
もうねー、ホントに適役なのよ。惚れ惚れ。ステキな男の子だったよぅ(*^-^*)。
思うに大陸の男の子ってのは、純朴なのにおもねらない感じだし、優しいんだけど男気もあって、そういうとこがたまらなく魅力な気がする。これが一歩都会とか国外とかに出て資本主義の競争社会に巻き込まれちゃうと事情が違ってきちゃうんでしょうけど、あくまでも田舎の大陸青年というのは今でも小さな人民解放軍の心意気というか、自負心があるような気がするんですよねぇ(そういうふうにムリヤリ教育されてるっていうか)だからなんだか一途な感じ…って激しくアタシの妄想か?すんません(^^;)。
とにかく、リュウ・イェってのはそういう男の子の役がとても似合うんですっ!っと、これだけは断言しておこう。
全編、リュウ・イェとカレーナのやり取りが中心で、イーキンは回想シーンに出てくるという形です。
イーキンのシーンは体温がない感じの映像で、そういう質感も巧かったなぁ、と思いますね。最後まで予感は予感のままで終わりになっているので、とても奥ゆかしく余韻が残ります。
ラストの幾米の絵は、「いかにも」な感じでちょっとあざといかも、と思わなくも無いですが、あざといのもわりと好きなアタシなので、まぁ、良かったかなぁーと思います。
そして最後のカレーナの笑顔。春の花のような笑顔に、一気に涙腺大爆発!なのでした。