「輪違屋糸里」(上下)

 

輪違屋糸里 上 (文春文庫)

輪違屋糸里 上 (文春文庫)

  • 作者:浅田 次郎
  • 発売日: 2007/03/09
  • メディア: 文庫
 

 浅田次郎・著(文藝春秋)。
私は浅田センセの大ファンなので、その作品評価はすごく甘いのかもしれませんが、ファンだからこそよく見えてる部分(欠点とか)てのもあると思っています。
ま、その目に付く第一として、往々にしてセンセは男同士の感情の交流や男性集団の描写に長けていて、そのへんがそこはかとなくホモソーシャルな魅力だったりするわけなんですが…要するにちょっと男臭い世界を描くのがお得意で女性の描写がイマイチだなー…というのがあるのね。女性があんましリアルでない、っていうか、絵に描いたようなのが多かった。
けど、この小説は違ったです。
センセの作品でここまで女性がきっちり描けてるのって今まで無かった。そのことが、ものすっっごく、泣けてくるほど嬉しかったのでした。←これって、好きな人がこっち向いてくれた、みたいな感じか?(笑)

題名は輪違屋(わちがいや)という置屋の糸里(いとさと)という芸妓、という意味で、題名だけみればこれは女性が主人公です。
とはいえ、その実は誰が主人公というのではなくて、新選組を中心にした群像劇になっていて、見方によってはヒジカタが主人公だったり、永倉や沖田くんや鴨やお梅さんがそうだったりもする。いろんな立場の人間の、それぞれの想いが感じられるという書き方になってる。
でも、真ん中に一本、透明で強いスジとして、糸里という存在がある。というより、「女」という存在か。
ともかくこれは真っ向から「女」を描いた、浅田センセらしからぬ冒険(センセの作家としての冒険、ね)的な小説だという事は言えましょう。でもって見事にそれは成功してる。大成功だ。

今までの新選組ってのは完全に男の世界でしたでしょ?彼らのひたすらな思い込みも理不尽さも、いろんな人が書き尽くしてきた感があるけど、それを女の立場からみてここまで繊細に書いた小説ってないんじゃないかなぁ。
新選組にとって女は添え物で、傍観者で、あるときは被害者で、男の思惑など感じる事もできない別の生き物のようにしか今まで扱われていなかったけれど、この世で共に生活して生きてゆく上で男女がそんな関係性でしかないということは実際はありえない。
男の感情が動けば、女の感情だって動く。男が血を流せば、女だって血を流すんだ。そういう道理が、センセの物語にはちゃんとある。男が男の美学にだけ酔ったような話なんてバカバカしくって鼻白むだけ。そこにはちゃーんとそれを見て、何かを感じてる女がいる。

たぶんセンセはちゃんと女性を見てくれる人なんだと思う。
畏れや愛情をもって、ちゃんと見てくれている。ホントのフェミニストなんだよね。そのことが感じられて、ますます好きになってしまった(*^-^*)。
っていうか、人間に対しての愛情にあふれているんだよね。男にも女にも、死に逝く者にも優しい。
それに、人物の感情の流れを描く時、センセは決して短慮な想像しないんですよね。すごく深いところまで見えてる。それを今まで以上に強く感じました。
でも、世の中思った以上に短慮な人って多いんだと思うし、実際の登場人物たちはあそこまでいろんなこと考えられる人物だったかどうかはまた別の話だと思うけどね。小説だからそれはいいっこなしだけど(逆にもっといろんなこと考えてたのかもしれないし。そんなのは探ってもきりが無いし無意味ですね)
毒婦と言われたお梅さんや、傍若無人キャラな芹沢鴨を、こんなに優しく書く人はいない。泣けてくる。
もうそれだけで、草葉の陰の魂への配慮が感じられてねぇ。

描かれている新選組隊士の面々は、それぞれに魅力的です。
キャラも従来のものを逸脱せず、さらに愛情を持って描いてる。今まであんまり(私の中では)キャラ立ちしてなかった平山五郎が、印象的で良かったです。傍観的な書き方だったけど、それが効果的だったんじゃないかな。
沖田くんは、難しいですね。ちょっとハズしたかも。沖田くんの内面を(しかもモノローグで)書くのはなかなか難しいような気がします。クドイわりに効果薄い感じだったし。
ヒジカタはもう、そのまんま。王道のヒジカタ。今、大河で演じてる山本くんにそのままぴったりです。

「誰でもが感じられる共感」という平坦な横並びの感情を安易にもってくるのではなく、それぞれの運命を背負った個々人の、個々人にしか感じ得ない感情を描写しながらも、もっと大きな普遍の人間存在の妙、みたいなものを描き出す力のこもってる小説でした。
相変わらず、生気が溢れているし。小説の力、というのを感じさせてくれます。
最後の数ページは号泣しながら読んだ←いっつもだ。だからセンセの作品は「浪花節」とか言われるのかもしれないけど、こんだけ毎度泣かせる筆を持ってるってのも、すごい事だと思う。
この深さをわからない人とは、どこかでわかりあえないのかも…と思ったりなんかする(笑)。
個人的には絶賛だった「壬生義士伝」以上に気に入ってます。ぜひ、お薦め!