「Diamond Road」

 

カモン・カモン

カモン・カモン

 

 表題の曲はシェリル・クロウのアルバム「C'mon, C'mon」(2002年)に入ってます。
「C'mon, C'mon」はハズレ曲ナシのすっごい素敵なアルバムで、他にも名曲が目白押し。ちょっとヘコんだ時などはこのアルバム一枚で元気になれたりします。
アルバム全体がオールドな70年代カントリー・ロック風味で、その中でも特にこの曲は泥臭いというか古いというか、中西部アメリカの芋臭さが感じられるのですが、そこにものすごくホッとする。
前向きだけどどこかポッカーンとした諦念のある歌詞もとても好きです。

人生は「道」だ、と思う。少なくとも私の感覚では。
私の憧れの道は、ずっと先まで見通せる起伏の無い、遮蔽物の無い、ネバダの砂漠あたりをまっすぐに通っているような果て無き道です。
そんな道を、カーステレオでブルースをかけながら走ったら、私はものすごく「今、自分は人生のど真ん中にいる」と感じることでしょう。
ま、それに近い感覚を北関東の国道を走っていても感じるんだけど。

私の思い描く人生のイメージには、道と、そこを移動する車が欠かせない。
私はモータリゼーションの申し子なのです。なんつっても、日本一モータリゼーションが発達しているといわれる土地に生まれ育ってる。「電車文化」の中で育っていない。
電車は都会への上京手段であり、非日常なんですよね。
日常にあるのは車。そして、道。
道の移動は時間軸と重なり、ゆえに「車での移動」が、「過ぎ行く人生の時」と重なるのだと思う。
そこにあるのは、車がなければ、道がなければ、若者が恋さえできない町であり、そこから何マイルも離れた都会へ出て行かなければ「成功」は得られないと思っている若者たちなのです。
そうした決して都会的ではない場所に育った私にとって、このアルバムに収録された曲はどれも共感やまないものばかりです。
この歌もまた、都会的ではない。どこが田舎臭いというわけでもないけど、要するに人生を道に喩える感性がすでに田舎モノってことで。

シェリル・クロウミズーリ州の出身なんですが、音楽は血肉から生まれてくるんだなぁというのを、このアルバムからはシンシンと感じます。
血肉を育てるのは生まれ育った土地と時代。
ミズーリといえばアメリカの中のアメリカ。「Heart of America」。「トム・ソーヤー」の故郷。ミシシッピ川が流れ、綿花畑がどこまでも広がっている、圧倒的にだだっ広い平らな土地。
彼女の血肉の中にはどうしたって60年代のミズーリに生まれた人間だからこその感覚ってのが拭い去れずにあるような気がします。
ちょっとダサくて、でも懐かしくて…ストレートにそれを演ってしまったらミュージシャンとしてあまりに素直すぎるんじゃないか?っていうような、そんなメロディが、脈づいている。
自分の血肉に流れる音楽を披露するのって、特にシェリルのようなタイプのミュージシャン(=アルバムがでるたびに曲調だけでなくビジュアルもが変わるという、わりとチャレンジャーなミュージシャン)にしてみると、案外勇気の要ることだったかもしれないですが…結局のところ「懐メロ」だの「田舎臭い」だの言われようが、そのメロディは単にスタイルとして古臭いものを真似ただけではなくて、シェリルの場合「ホンモノ」だから、却ってとても魅力的なんですよね。
私は彼女のアルバムの中ではこれが最高傑作だと思ってます。

蛇足ですが。このアルバム、グゥイネス・パルトローも参加してる。彼女ってすっごいギャラの高い歌手でもあるんだよね。なんでだかよくわかんないんだけど(^^;)。